ストーリーの秘話5
私たちは日々、現実を観察し、それを自分なりの視点で解釈しながら生きています。この解釈を形作るのが「ストーリー」です。
ストーリーは、私たちの思考や行動の指針となるものですが、ときに他者のストーリーと衝突することがあります。その際、人は自分が信じるストーリーに対して抵抗を示し、対立が生まれることがあります。
こうした抵抗が生じたとき、まず必要なのは相手への共感と協力の姿勢です。
相手のストーリーに耳を傾け、その背景にある感情や価値観を理解することで、対立を解消し、新たな関係性を築くことができます。抵抗を無視したり、無理に押し通そうとすると、人と人との間に溝が生まれ、建設的な対話が難しくなります。
それでは引き続き、アネット・シモンズさんの『プロフェッショナルは「ストーリー」で伝える』で、ストーリーに対する抵抗の種類と、それに対処するための方法について学んでいきたいと思います。
抵抗のタイプとその対処法
1. 懐疑心(疑い深い)
相手は「そのストーリーは本当に正しいのか?」と疑問を持っています。この場合、ただ説明するだけではなく、語られたストーリーが実際に機能することを証明する必要があります。
例えば、あるビジネスの新しい戦略を提案するとき、単なる理論ではなく、実際に自分で試し、その成果を見せることが重要です。行動によって裏付けられたストーリーは、相手の疑念を和らげる力を持ちます。
2. 憤慨(怒り)
特に新しい試みを始める際に、怒りの感情が生じることがあります。「みんながやるならやるが、自分が先陣をきって、もし失敗してしまったとすれば損だ」と感じることが多いのです。
このような場合は、「率先して行動すること、最初の一歩を踏み出すことが素晴らしい」というストーリーを共有し、自分自身がその実例となることで、他者の抵抗感を和らげることができます。
3. 嫉妬
「なぜあの人だけが成功しているのか」「なぜ自分にはチャンスがないのか」といった不公平感から生まれる抵抗もあります。
この場合、未来に目を向けることが大切です。「お互いに協力し合えば、より良い状況を作れる」というストーリーを伝え、一緒に成長できる道を提示することで、嫉妬の感情を和らげることができます。
4. 無力感
「どうせやっても変わらない」「努力しても意味がない」と感じる人は、そもそも挑戦する意欲を失っています。
こうした人には、「希望を失わずに行動を続けることが大切」というストーリーが響きます。小さな成功体験を積み重ねることで、自分にもできるという自信を持たせることが重要です。
5. 無関心
無関心は、実は「かつて関心があったのに、やっても自分にはできない・・・」とあきらめてしまったことが多いのです。
そのため、「どうにかなる」「やってみる価値がある」という視点を持たせることが効果的です。関心を持ってもらうためには、話しかける側が心からの敬意と好奇心を持ち、相手の考えを尊重する姿勢が求められます。
6. 強欲
「今の自分の利益を最優先したい」と考える人は、現状維持を選びがちです。
こうした人に対しては、「現状が本当に良いのか?」「このままで将来の利益は保証されるのか?」と問いかけるストーリーが有効です。変化がもたらす可能性を示すことで、考え方を柔軟にするきっかけを作れます。
ストーリーを共有することの重要性
ストーリーへの抵抗を減らし、相手に新しい考えを受け入れてもらうには、まず相手の話を聞くことが不可欠です。人は、自分の話を真剣に聞いてもらえると、不安を口にすることを恐れなくなります。そして、それが対話の第一歩となるのです。
自分にもストーリーがあるように、相手にもそれぞれのストーリーがあります。相手のストーリーを聞くことで、自分の考え方を振り返る機会にもなります。また、話を聞くことは、相手の知恵や創造性を引き出し、新しい考え方を試みる手助けにもなります。
さらに、ストーリーを語り合うことは、人と人との間に絆を生み出します。ストーリーの共有は単なる情報交換ではなく、相互理解を深める行為なのです。
現代社会にこそストーリーを
現代社会では、人々が互いに十分な関心を払う機会が少なくなっています。しかし、他者のストーリーを理解し、共感することができれば、より良い人間関係を築くことができます。
人々が本当に学ぶのは、自分のストーリーを再検討し、新しいストーリーを獲得しようとするときです。学ぶ姿勢は好奇心を生み、人を動かす力になります。
人を動かす必要があるならば、まず相手がどのようなストーリーを持っているのかを知ること。そして、互いに新しいストーリーを紡いでいくこと。それが、より良い未来への第一歩となるのです。
