「NUDGE」とは? 賢い選択をうながすガイドブック
私たちは日々の生活の中で、無意識のうちにさまざまな判断を下しています。
しかし、その判断は必ずしも合理的ではなく、さまざまな心理的バイアスの影響を受けています。
今回から、リチャード・セイラーさん、キャス・サンスティーンさんの『NUDGE 実践 行動経済学 完全版』で、私たちの行動を左右する代表的なバイアスと、それが具体的にどのように影響を及ぼしているのかについて学んでいきたいと思います。
1. アンカリング(基準に引っ張られる)
何かを判断するとき、最初に見た情報や数字に影響を受けることを「アンカリング」と言います。
たとえば、スーパーで「通常価格5000円のバッグが、今日は3000円!」と表示されていると、単純に「3000円」と書かれているよりも、(「5000円」に比べて、3000円は安いな)と感じるようになります。すると、本来の価値が3000円であったとしてもお得に感じて購入につながることになります。
2. リアクタンス(反発心理)
「絶対に○○しないでください」と言われると、逆にやりたくなった経験はありませんか?
これはリアクタンスという心理的バイアスの影響です。例えば、「スマホの使用は禁止!」と言われると、逆に触りたくなるものです。
この心理を理解すれば、禁止するよりも「スマホを使わないことで得られるメリット」を伝えた方が効果的であるとわかります。
3. 利用可能性ヒューリスティック(身近なものほど影響を受ける)
人は身近なものや目立つものを過大評価しがちです。
たとえば、飛行機事故のニュースを頻繁に目にすると、飛行機の安全性に不安を感じるかもしれません。
しかし、実際には飛行機よりも自動車の方が事故の確率は高いのです。
何かを考えるときに、すぐ頭に思い浮かべるものに強い影響を受けているということになります。
4. 代表制ヒューリスティック(ステレオタイプに基づく判断)
たとえば、「メガネをかけていて本をよく読む人は学者っぽい」と感じるのは、代表制バイアスの影響です。
このような先入観があると、実際の能力や事実に関係なく、第一印象で判断してしまうことがあります。
5. 楽観バイアス(自分だけは大丈夫)
「自分は事故に遭わない」「自分は絶対に病気にならない」のように自分は大丈夫だと思い込んでしまうことがあります。
これがあると、保険の加入を後回しにしたり、健康管理を怠ったりする原因になります。
6. 損失回避バイアス(失うことの方が怖い)
人は何かを得る喜びよりも、失う痛みを2倍以上大きく感じると言われています。
たとえば、「このポイントカードを手放すと、これまで貯めた特典がゼロになりますよ」と言われると、無理にでも使おうとしてしまうのです。
7. 現状維持バイアス(変化を避ける心理)
「このままでいいや」と思ってしまうのは、現状維持バイアスの影響です。
たとえば、サブスクリプションサービスの自動更新を止められないのもこの影響です。「解約の手続きをするのが面倒だから」と放置してしまうのです。
8. フレーミング効果(表現の違いで判断が変わる)
「このサプリメントを飲むと5kg痩せられます!」と言われるのと「このサプリメントを飲まないと、5kg太るかもしれません!」と言われるのでは、後者の方が行動を促される傾向があります。
9. コミットメント戦略(先に決めてしまうことで誘惑に打ち勝つ)
たとえば、「毎朝6時にランニングする」と決めて友人と約束することで、途中で挫折しにくくなります。
これは、他人との約束がモチベーションを維持する役割を果たすためです。
10. メンタルアカウンティング(お金の使い道を限定する)
「このお金は旅行のために貯めたものだから、他の用途には使わない」と考えることがあります。
これはメンタルアカウンティングという心理で、お金の用途をあらかじめ決めておくことで、無駄遣いを防ぐことができます。
11. 社会的影響(周囲の行動に影響される)
「みんながやっているから」と思うと、ついつい自分も同じ行動を取ってしまいます。例えば、自分が欲しいと思っているものであっても、自分の前で選択している人が連続して断っているところを見ると、周囲の人もやっていないから自分もやめておこうと考えるようになります。
12. 多元的無知(周りがどう思っているかわからないために従ってしまう)
本当はみんなが「このルールはおかしい」と思っていても、「みんなが賛成しているのでは?」と誤解して従ってしまうことがあります。例えば、職場の無駄なルールを誰もが不満に思っているのに、誰も口に出さないために変わらないといった状況です。
バイアスを理解できると、より良い判断ができるようになる
これらのバイアスを知ることで、自分がいかに無意識に影響を受けているかを理解できます。そして、より合理的で良い選択をするためには、
- 判断を急がず、一度立ち止まって考える
- 周囲の影響を受けすぎないようにする
- 感情ではなく、事実に基づいて判断する
といったことが大切です。
私たちは常にバイアスの影響を受けていますが、それを意識するだけで、より良い選択ができるようになります。
