信頼できますか?
信頼という賭け ー フリマアプリのトラブルから考える
最近、フリマアプリで「注文したものと違う商品が届いた」という話題がSNSを賑わせている。こうしたトラブルは、単なる配送ミス以上に、人々の「信頼」を揺るがす問題として広がっている。
なぜなら、フリマアプリの取引は、見知らぬ誰かを信頼することによって成り立っているからだ。商品写真を信じ、説明文を信じ、出品者の誠実さを信じる。この「信じる」という行為は、実は一種の賭けである。
言い換えれば、「自分がこの人を信じてよいと判断する能力」に賭けているのだ。
今回はデイヴィッド・デステノさんの『信頼はなぜ裏切られるのか 無意識の科学が明かす真実』で「信頼」について学んでいきたいと思います。
信頼はなぜ危険を伴うのか?
人を信頼するということは、リスクを伴う。
相手が裏切るかもしれないからだ。
しかし一方で、私たちは他人を信頼せざるを得ない。
なぜなら、人間は一人では生きていけず、他者との協力によってしか大きな成果を得られない社会的な存在だからだ。
信頼することで受けるかもしれない傷は大きい。しかし、それでも人が信頼を選ぶのは、それによって得られるものの方が、平均的には大きいからだ。
心理学や経済学では、人間は「得る喜び」よりも「失う苦しみ」を強く感じるとされている。それでも信頼というリスクを取るのは、そこに希望と可能性があるからである。
「しっぺ返し戦略」と社会のバランス
ゲーム理論の有名なシミュレーションの中に、「しっぺ返し戦略」というものがある。
これは、相手が信頼してくれたら自分も信頼し、裏切られたら自分も裏切るという単純な戦略だが、長期的には最も利益を得やすいとされている。
信頼がベースにある社会では、この戦略がうまく機能する。
信頼が続く限り、双方に利益がある。
しかしそこに一人の「裏切り者」が現れると、状況は急変する。裏切った者が短期的に大きな成果を手に入れれば、それを見た他者も裏切りに走るようになる。
そうして信頼が崩壊し、「裏切られるかもしれない」という前提が社会に蔓延する。
すると逆に、「この人は信頼できる」という人物の希少価値が高まっていく。
つまり、信頼の循環が壊れることで、「誠実であること」の価値が再び強調される。
社会の信頼は、壊れ、揺らぎ、そして再構築されるというサイクルを繰り返しているのだ。
成功と誠実さのあいだ
成功した人というのは、たくさんの人との関係を築き、そのなかで多くの資源やチャンスを得た人だともいえる。
つまり、信頼される人ほど、多くの協力者に恵まれやすい。
とはいえ、人は不確実な時間の中で生きている。明日がどうなるか分からないからこそ、つい「短期的に得をする」選択肢、つまり裏切りを選んでしまうこともある。
だからこそ、誠実さには「自己制御能力」が必要だ。
今すぐ手に入りそうな報酬に飛びつかず、長期的な信頼関係から得られる利益を優先できる人だけが、本当に信頼される存在になれる。
信頼は「読み合い」のゲーム
本当に信頼できる人かどうかを、過去の行動や評価だけで見極めるのは難しい。
なぜなら、人は変わるし、表面だけでは分からないことも多いからだ。そのときの感情によっても変わります。
それでも私たちは、日々誰かを信じ、誰かに信じられながら生きている。
信頼とは、相手の心を読み取り、そして自分の判断に賭けることだ。
その賭けに勝ち続けるには、自分自身が誠実であることが何よりも重要なのかもしれない。
