「NUDGE」とは? 賢い選択をうながすガイドブック2
行動を促し、組織を最適化する方法 ~行動経済学と心理学の視点から~
人が自発的に動く組織や環境を作るにはどうすればいいのか?
仕事の現場でも、日常生活でも、「行動を促す方法」や「選択肢の管理」は非常に重要です。なぜなら、人は本能的に楽な選択をし、環境に影響を受けやすいからです。
今回は、リチャード・セイラーさん、キャス・サンスティーンさんの『NUDGE 実践 行動経済学 完全版』で行動経済学や心理学の視点から、行動を促進するための具体的な方法について学んでいきたいと思います。
1. ミスを指摘できる仕組みが組織を強くする
オープンなフィードバック文化の重要性
多くの組織では、上司やリーダーがミスをしても、部下やメンバーがそれを指摘しにくい雰囲気があります。しかし、全員がミスを指摘できる文化を持つ組織は、問題を早期に発見し、迅速に修正できます。
具体例:航空業界の「CRM」
航空業界では「クルー・リソース・マネジメント(CRM)」という考え方が導入されています。これは、パイロットだけでなく、客室乗務員や地上スタッフも機長のミスを指摘できる文化を作ることで、安全性を向上させる取り組みです。例えば、機長が誤った判断を下した場合、副操縦士や客室乗務員が「本当にその判断で大丈夫ですか?」と指摘できる環境が整っています。
→ 結果的に、航空事故の大幅な減少につながっています。
ビジネスの現場でも、上司のミスを適切に指摘できる環境が整っていれば、組織はより効率的に機能するでしょう。
2. 行動を促すためには「簡単に」できるようにする
行動を促したいとき、人は「できるだけ簡単に」できるかどうかで、実行するかを決めることが多いです。
具体例:エコ活動を促す「デフォルト設定」
オフィスでペーパーレス化を進めたい場合、
- 「ペーパーレスオプションを選んでください」とすると、利用率が低い。
- 逆に、「初期設定でペーパーレスに設定し、紙を使いたい人だけ拒否する」にすると、ペーパーレス化が進む。
これは「ナッジ理論」に基づいた手法で、人が自然に望ましい行動をとるように環境を設計するものです。
→ 「やることが当たり前」な環境を作れば、人は自然とその行動をとるようになる。
3. フィードバックが人のパフォーマンスを向上させる
人は、自分の行動が良いのか悪いのか分からないと、改善するのが難しくなります。適切なフィードバックがあることで、人は成長し、より良い結果を生み出せます。
具体例:ゲーミフィケーションの活用
フィットネスアプリは、この仕組みをうまく活用しています。
- 運動したらリアルタイムで「消費カロリー」や「歩数」が表示される。
- 目標を達成すると「バッジ」や「称賛メッセージ」が表示される。
→ こうしたフィードバックがあることで、ユーザーは継続的に運動を続けやすくなります。
4. 選択肢を減らすことで、満足のいく決断をしやすくする
選択肢が多すぎると、人は逆に決断できなくなります。
具体例:レストランのメニューの最適化
レストランでメニューの数が多すぎると、顧客は何を頼むか迷い、時間がかかります。しかし、
- 「おすすめ3品」
- 「人気ランキング」
を提示すると、選択が簡単になり、満足度が向上します。
→ 重要なのは、情報を整理し、選択しやすくすること。
5. 望ましい行動を「楽しく」する
人は「楽しい」と感じることに対して、自然と行動を起こします。
具体例:「ピアノ階段」プロジェクト
スウェーデンの地下鉄では、
- エスカレーターの隣に、階段を「ピアノの鍵盤」にして、踏むと音が鳴る仕組みを作った。
- すると、階段を利用する人が66%増加。
→ 楽しさを加えることで、行動を自然と促すことができる。
6. 無料のものに人は引きつけられる
人はお金を使うことに対して抵抗を感じるが、「無料」には強く惹かれます。
具体例:フリーミアム戦略
多くのサービスが「無料プラン」を提供する理由は、人々が無料のものに惹かれやすいからです。
例えば、
- SpotifyやNetflixの無料トライアル
- Amazonの「無料配送」
→ 一度サービスを体験させることで、より高額な有料プランへ移行させることが可能になる。
7. 行動をしない理由を探り、障害を取り除く
もし望ましい行動をとってほしいのに、誰もやらない場合は、「なぜやらないのか?」を探る必要があります。
具体例:リモートワークの導入
リモートワークを促進しようとしたが、社員がオフィスに出社し続ける。
→ 調べてみると「家では仕事がしにくい」「オンライン会議のやり方が分からない」といった障害があった。
→ 環境整備(通信費補助・オンライン会議の研修)をすると、リモートワークが定着。
行動をかえるためには?
人の行動を変えたり、望ましい行動を促したりするには、以下のポイントが重要です。
- フィードバックしやすい文化を作る
- 行動を簡単にする
- フィードバックを与える
- 選択肢を整理する
- 楽しさを加える
- 無料の魅力を活用する
- 行動しない理由を分析する
これらの原則を活用すれば、より良い組織や環境を作ることができます。
